菊池がんクリニック

院長あいさつ

ここ20年間でがんに罹る率は4人に1人から3人に1人、そしていまや少子高齢化と共に2人に1人に迫ろうとしております。

ごく一部の方ががんで幸いにも早期に発見でき、再発せずに寿命を全うする人もいますが、殆どの方ががんで早期に発見されても再発し、初回治療で効果があったものが無効となり、当院を紹介され、あるいはご自分でインターネットで当院を探し当て来院される方も多数おられます。

当院ではこの様な種々の治療を行ったあと、効果がなくなり日本ではこれ以上効果のある治療法はないと宣告されてこられる患者さんの治療暦を詳細に分析して、その患者さんに最も適すると思われる、本邦では使用できないが海外ではその有効性が認められ、実際に使われている分子標的薬を含めた治療レジメンを提示し、同意を得た上で治療を行っています。

患者さんの殆どは外来で週1回の治療を行っております。従って副作用は少なく、遠方から[飛行機で]来られる患者さんも多数おります。その患者さんの殆どは当院の治療に満足し、たとえ効果が思うほど得られなくとも通院してこられ、患者さんの笑顔と接するとき私が最も幸せだと感じるときです。

今後とも日進月歩するがん治療の先端に立って患者さんのために頑張りたいと思います。

院長ごあいさつ

 がんに歴史あり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

がんという病気が日本人の死亡原因第1位になってから20年以上になります。その間、がん患者の数は増える一方で、近年では死亡原因に占めるがんの割合も30%を超えるまでになっております。

ちなみに厚生労働省の「人口動態統計」で数値が確定している直近の2008年の統計では、死亡者数114万2407名中、がんで亡くなった人の数は、正確ではありませんが34万2963名となっています。

何故がんに罹る人が増えているのかという問題については、病理学的な観点からさまざまな研究がなされ、議論の多いところです。病理学的な観点とは別に統計的な事実として言えることは、日本人の平均寿命が著しく伸び、高齢化すると共にがんに罹る人の数も増えているということです。

例えば70歳以上では、死亡原因に占めるがんの割合は50%に達しようとしています。近年のこうした高齢化傾向を具体的な数値で示しているのが同じく厚生労働省から出ている「人口統計資料集(2010)」のなかの「年齢別人口の推移と将来推計」です。それによれば、2010年に1519万人である65歳以上75歳未満の人口は2015年には1733万人、2020年には1716万人と推移していくとの予測が記されています。同様に75歳以上の人口は2010年の1422万人が2015年には1645万人、2020年には1874万人と推移していくと予想されています。65歳以上75歳未満の人口は2015年から2020年までの5年間で15万人強減っていますが、75歳以上の人口はその分を補って余りある230万人以上増えると予想されています。一方で総人口は減っていくわけですから、65歳以上の高齢者の占める割合が飛躍的に高くなっていくことが想像できます。おそらくこのまま高齢化が進んでいけば、死亡原因に占めるがんの割合が50%以上になるでしょう。

日本ではどんながんで死亡したのか正確に調べる方法がありません。なぜなら、死亡診断書には直接の死因を書くところがあっても直接の死因は殆どががん死にはならないので、統計には出てきにくいところがあります。従って、日本でも米国のようにがん登録制をしいて、どこでどのようながんが発生したのかわかるようにしておくべきです。

婦人科がんの現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は1967年大学を卒業して以来、40年以上に亘り婦人科がんの治療と研究に携わってきました。

婦人科がんの患者数もトータルでは増加しています。国立がんセンターの2004年度の統計から主な婦人科がんを多いものから順にあげると、乳がん約5万人、子宮頸がん約1万6000人、卵巣がん約8700人子宮体がん約7300人となっています。このうち子宮頸がんについてはHPVの感染が発症の引き金となっていることが明らかになっています。

HPVは主として性行為によって子宮頸部に感染します。多くは自然に治癒するのですが、100種類以上ある亜種のうちHigh-riskのHPVに持続感染すると、異型上皮から上皮内がんへと進行するケースがあります。このがんはさらに10年ほど経過すると、浸潤がんへと進行していきます。このため若年層の女性は、年に一度の子宮頸がん検診を受ける必要がありますが、若年層の検診受診率は10%前後に低迷しております。国のがん対策基本法では検診率を50%にまで上げるとしています。

しかし、わが国の子宮頸がん検診受診率は僅かに20%程度で、他の先進諸国の70~90%に比し著しく低いままです。それをカバーする意味もあって、厚生労働省では子宮頸がんの予防ワクチン接種のキャンペーンを大々的に行い、一定の効果を挙げつつあります。それ自体はいいことなのですが、ワクチンの予防効果は100%ではありません。ワクチンを接種しても約30%の人は子宮頸がんに罹る恐れがあります。従ってワクチン接種後も定期的に子宮頸がん検診を受ける必要があります。

子宮頸がんの検診は細胞レベルでのがんの発見が可能です。HPVテストと細胞診を組み合わせることで前がん病変を100%診断できます。年1回の子宮頸がん検診を受けることがこのがんを撲滅する決めてであることを改めて強調しておきたいと思います。

これに対して、乳がんは長期の治療が必要になりますし、子宮体がんや卵巣がんは早期発見が難しくその分治療も難度の高いものになっております。

乳がん、子宮体がん及び卵巣がんは生活習慣の欧米化に伴って増加しております。最近ではこれらのがんの生活習慣病との関連も指摘されております。

「がんはいつかは治せるようになる」と実感させられた経験・・・・・・・・

私は婦人科医になってから、さまざまながんの治療と研究に携わってきましたが、その歳月を振り返るにつけ、婦人科がんの傾向が時とともに推移していくさまにいまさらのように感慨を新たにしております。

私が婦人科医として大学病院に勤務し始めた1960年代の後半、婦人科がん(乳がんを除く)で最も患者数が多かったのは子宮頸がんでした。その当時大学では進行子宮頸がんをなくそうと、千葉県下全てを検診車で回って細胞診を行っておりました。私もこの検診に毎年のように借り出され、その当時は1か所の検診場所で200人以上の子宮頸部細胞を自分でその場で染色し、検鏡して結果をその場で知らせていました。最初のうちは進行した子宮頸がんを相当数見つけていましたが、検診を重ねていくうちに進行した子宮頸がんは見つからなくなり、殆どががんの手前の状況で発見されることが多くなりました。このときから私は子宮頸がんの検診の重要性を認識させられたといっても過言ではありません。進行子宮頸がんが多く見つかるところは検診の行き渡らない医療過疎地であると思うようになりました。そして子宮頸がんは細胞レベルで発見できる唯一のがんで、検診さえ受けていればこのがんで命を落とすことはないのだと確信するようになりました。

もう一つその当時我々を一番悩ませてくれたのが、今では殆ど見なくなりました絨毛がんの治療でした。このがんは先ず受精卵の中の精子に由来するブドウの粒状に増殖する胞状奇胎から発症すると考えられていました。この胞状奇胎が進行するとブドウ状の粒が消え、絨毯の毛のような形状のがんができます。当時、日本では妊娠によってこの胞状奇胎になる割合は400人に一人でした。それに対して欧米では2000人に一人の割合でした。日本ばかりでなくアジアの国々で比較的発症する割合が高かったわけですが、その理由は良く分かっていませんでした。いずれにせよ胞状奇胎にかかった患者のうち絨毛がんになる人の割合は100人に一人でした。さらに、その中の2人に一人は肺への転移などを起こして死にいたるというのが当時の状況でした。

私は病棟の婦人科がんの大部屋に入っている患者さんを診ていましたが、常に満床だったのを覚えています。未だ優れた抗がん剤のない時代で、私はこれという決め手となる治療を探しあぐねていました。そのうちメソトレキセートという抗がん剤が出来て、これがかなり効くようになりました。さらにいくつかの抗がん剤を組み合わせる化学療法が有効であることがわかり、絨毛がんの7割ぐらいが治るようになりました。そればかりではありません。治癒率が上がると同時に、胞状奇胎―絨毛がんに罹る女性の数そのものも減ってきたのです。 当時大学病院で年間100例を下らなかった絨毛がんの患者数が、現在では日本全国で10例ほどにまで減ってきているのです。この間、30~40年、胞状奇胎を発症する割合も欧米並みの 2000人に一人ぐらいに落ち着いてきたのです。その理由はおそらく胞状奇胎―絨毛がんが父親由来の精子に由来する、いわば患者のおなかの中に移植されたようながんである点に求められると思います。いわば父親の遺伝子と母親の遺伝子を両方持つわけですが、化学療法が発達してそうした胞状奇胎を発症する遺伝子が抑えられ、30~40年という期間に世代を経て、そもそもの発症が減少したのだと考えられます。

しかし、私が心にいちばん強く銘記したのは別の思いでした。「あれほど難治性で患者さんの2人に一人が亡くなるような絨毛がんでさえ、治療法が見つかって治るようになるんだ」という思いでした。この思いは今も私の婦人科医としての医療を支えています。

がんの本態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

がんというものは、本来は患者の身体の中から生まれてくるものです。自分の中にもともとある細胞ががん細胞に変わっていくわけです。その点で先に触れた絨毛がんは例外的だといえるかもしれません。

絨毛がんの治療にある程度目途が立ったとき、私が次に是非研究してみたいと思ったのは卵巣がんでした。卵巣がんは、現在でもそうですが、発見するのが難しく、発見されたときにはかなり進行しているケースが多い厄介ながんです。私は、なんとしてもそんな難治性の卵巣がんについて調べ、その性質を明らかにし、治療に役立てたいと思ったわけですが、もう一つ理由があります。それは、卵巣がそもそもの人間の身体の元を作る卵を作っているからでした。

がんは人間のさまざまな臓器にできますが、卵巣にできるがんを調べれば、そのすべての元になる情報がかなり分かるのではないかと思ったのです。

以来、私は、卵巣がんをいかに早期発見できるか、それに応じた新しい診断法と治療法をいかに確立するかを中心に研究を進めてきました。その結果、内外のさまざまな研究成果も踏まえ、他の婦人科がんの性質や転移の実態についても、次々と新しい知見を得ることが出来ました。その成果は、私が現在院長を勤めているクリニックでのがん患者の診断と治療において活かされております。

防衛医科大学校の教授を定年退官し、2005年に念願のクリニックを開業したとき、私は、長い間胸に温めてきた基礎研究の成果と臨床での治療を直結した医療を実践するという夢に向けて一歩を踏み出した思いでした。基礎研究の成果を即座に臨床に応用できる、日本でも数少ないトランスレーショナル・リサーチを実践するクリニックを目指したのでした。それは血液によるがん検診、とりわけ血清蛋白の解析によるがんの「超早期」発見、また従来の抗がん剤とはちがう分子標的薬によるがん治療となって結実しつつあります。